源氏物語手鑑 夢の浮橋
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指定 | 重要文化財 |
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作品名 | 源氏物語手鑑 夢の浮橋 (げんじものがたりてかがみ ゆめのうきはし) |
作者名 | 土佐光吉(とさみつよし) |
時代 | 安土桃山時代 |
地域 国 | 日本 |
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分野 | 美術 |
員数 | 一帖 |
サイズ | 詞書16.9×34.7cm 絵19.7×25.9cm |
解 説
源氏物語を主題にした絵画いわゆる「源氏絵」は、平安時代以降、冊子、絵巻、扇面、屏風など諸々の形態をとおして描き続けられ、色彩の豊かさや華美な雰囲気から、雅な世界を象徴する題材として広く愛好された。桐壷から夢の浮橋に至る五十四帖の各段から、一ないし数場面が選ばれ、詞(ことば)と絵はそれぞれ八十面で構成されている。現在は詞と絵が上下に貼られた台紙八十枚に改装されているが、もとは帖仕立てであり、表記の名称も、帖に添えられた題箋に因んでいる 料紙には金銀箔や金銀泥を用いて秋草や樹木などの下絵が付され、中院通村、烏丸光広、三条西実条など十八名の公家が分担で物語本文の一部を写している。当時の公家たちによる古典研究の一端が、能筆をいかした詞書の書写にもあらわれていることがうかがえる点でも貴重である。絵は濃彩に金銀箔を多用した鮮やかな色調の細密画である。「土佐久翌」の墨文二重円印をともない、久翌と号した土佐光吉(1539〜1643)の手になることは明らかであるが、制作には光吉を中心とした土佐派の絵師による分業が想定される。伝統的なやまと絵の作風を継承する土佐派の絵は、『丹青若木集』など江戸時代の画史に「動勢なく美細」と評されているが、源氏物語など情趣にあふれた物語を絵画化するには、まことにふさわしいものであるといえよう。平安時代の源氏物語絵巻にくらべ、視覚的な華やかさに主眼がおかれるとともに、画面構成や場面の整理も進められている点で、以後の源氏絵の規範ともなっており、江戸初期における源氏絵制作や需要のありかたが端的に示されている。詞書筆者の一人山科言緒の日記によって、大坂の役で武功をたてた石川忠総(1582〜1650)の依頼により、中院通村が斡旋して成った作品で、制作年代も慶長十七年(1612)であることがほぼおさえられる。