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伊勢物語絵巻

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指定 重要文化財
作品名 伊勢物語絵巻
(いせものがたりえまき )
時代 鎌倉時代
地域 国 日本
分野 美術
員数 一巻
サイズ 26.8 ×412.0cm

解 説

平安時代中頃(十世紀)に成立したとされる『伊勢物語』は、在原業平の歌と数多い逸話を中心に構成された物語で、『源氏物語』「絵合」および「総角」に伊勢物語絵の記述が見られることから、早くに絵画化されていたことが知られる。伊勢物語絵の遺例は、梵字が版刷りされた「白描伊勢物語絵」(逸翁美術館ほか)が鎌倉時代のものとして知られるが、著色画としては本巻がもっとも早い。ただし詞書二段(定家本第一、二十七段)、絵七段(同本第一、四、五、九、十四、二十三、四十一段)からなる零本(完本ではないもの)であることはまことに惜しまれる。金銀泥による秋草や葦手交りの海浜の景など、細緻な下絵が施された料紙には、墨の濃淡と線の太細を巧みに使い分けた詞書がしたためられている。ほかに伏見天皇(1265〜1317)筆の伝承をもつ第五段の詞書残欠が御物として存し、本詞書の書体ときわめて近いことから、もとは一具をなしていたものとされている。絵は、頬が豊かで愛敬のある顔に、引目鉤鼻(ひきめかぎはな)の相貌をもつ人物や吹抜屋台など伝統的な作り絵の手法で描かれている。しかし一方で、物語の主題となる人物を画面の一端にやや小さく配したり、松虫、かたつむり、蓑虫、土筆、羊歯などの小さな動物や植物から、いたち、鼠、猿、目白などの鳥獣に至るまで、物語とは直接に関連のない点景の描写に意をそそぎ、土坡や遣水、建物の構えに同一の型を用いて調整し、金銀箔の砂子をふんだんに使用して色彩効果を高めるなど、伝統と新奇の構想をまじえて作画している点がきわめて特徴的である。このように本絵巻には、十二世紀末の「寝覚物語絵巻」にみられる鋭角的な場面構図や金銀箔を多用した屋外描写が、端整な装飾表現にまで高められ、かつ十三世紀末の「男衾三郎絵巻」、十四世紀の「豊明絵草子」にみられると同様の細緻で豊かな秋草や虫などの描写がさらに尽くされている。また書風が伏見天皇の在世期に近いものである点などを総合すると、やまと絵の正統な絵師による十三世紀後半から十四世紀はじめにかけての制作が想定される。昭和六十年に保存修理が行われた。

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